官能小説「マグマのような」


私は最終電車に揺られながら、現実と夢の世界との狭間を彷徨っていた。
私の携わるアパレル業界は現在繁忙期。私は一日三時間程の睡眠しかとれずに出社する日々を送っていた。そのため、電車が目的の駅に到着しても眠りから覚めず、気付いた時には電車は私の降りるはずだった駅から走り出していた。仕方なく私は次の駅で降りた。もう電車は残っていない。駅から出た私は、辺りを見渡したが、タクシーは見当たらなかった。一駅乗り越した程度なら歩いて帰れるかと思い、私は線路をたよりに、下車するはずだった駅まで歩いて戻ることにした。
駅から離れると、人や車の通りがほとんどなくなった。睡眠時間を確保しなければならないという焦りと、人気の無い知らない道を歩いていることの不安が、私を足早にさせる。気付くと、線路沿いのフェンスと雑木林に挟まれた薄暗い道にさしかかっていた。
先には民家の明かりは見えず、街灯がポツンポツンと立っているのみだ。不気味なその道を進むのは気が引けた。来た道を引き返し、別の道を行こうかとも思ったが、一刻も早く家に辿り着きたかった私は、後戻りする気になれず、その薄暗い道に歩を進めた。
歩きながら携帯電話を取り出し時刻を確認する。十二時半を廻っていた。よく考えたらこんな時間にこんな道を女一人で歩くのは、さすがに無防備過ぎるだろうか?どこかで変質者が待ち伏せてるかもしれない。人気の無いこの道では助けを呼ぶことも難しいし、雑木林に引きずり込まれたら一巻の終わりだ。私はやはりこの道を引き返そうかと思い、来たほうをふりかえった。
するとその時、雑木林のほうから人の駆け出す靴音が聞こえた。私はその音に反応してそちらを向く。男だった。三人の男が私に向かって雑木林から飛び出してきていた。とっさに逃げようとする私。しかし男に衣服をつかまれる。あっという間に羽交い絞めにされ、大きな掌で口を塞がれた。もう一人の男が私の両手首を力強くつかんだ。残り一人の男は私の足を抱きかかえるように持ち上げる。
最悪の予感が的中してしまった。暴漢だ。私はこれからこの男たちに乱暴される。
どうしようもない状況に絶望しかけたその時…
「何してる!!」
大声が響き渡った。私は声のした方向に目線をやった。
そこには一人の男が立っていた。鋭い眼光。スーツ越しでもわかる筋肉質な肉体。獣の雄叫びのごとき太い声。
マグマのようであった…。
例えるなら彼はまるでマグマのような男であった…。
彼はこちらに向かって駆け出した。暴漢の一人が私の足から手を離し、彼を迎え打とうと構えをとる。しかし彼はそんなことおかまいなしに助走の乗った拳を暴漢の腹部にめり込ませた。助走の乗ったボディーブローを喰らったその暴漢は、呻き声を洩らしその場にへたりこんだ。
マグマのようであった…。
例えるならそれはまるでマグマのようなボディーブローであった…。
私の手首をつかんでいたもう一人の暴漢が、右こぶしを振りかざし、怒声を発しながら彼に突っ込んで行く。次の瞬間、暴漢の体は背中から地面に叩きつけられた。背負い投げである。
マグマのようであった…。
例えるならそれはまるでマグマのような背負い投げであった…。
一瞬で仲間二人がノックアウトされた様を目の当たりにした残り一人の暴漢は、私を解放すると、ジーンズのポケットからバタフライナイフを取り出し、刃を彼の方へ向けて構える。彼は表情ひとつ変えずファイティングポーズをとった。数秒の対峙。そして繰り出された暴漢のバタフライナイフ。彼は自らに迫り来るその凶刃に対し微塵の怯みも見せず、当然のように手刀でそれを叩き落とし、間髪入れずに暴漢の顔面に肘打ちを叩き込んだ。
マグマのようであった…。
例えるならそれはまるでマグマのような肘打ちであった…。
肘打ちを喰らった暴漢は、地面に膝を付き、両手で鼻から下を覆った。両手の隙間からボタボタと鼻血がこぼれる。
マグマのようであった…。
例えるならそれはまるでマグマのような鼻血であった…。
歴然とした力の差を思い知らされた三人の暴漢は、戦意喪失し、なりふり構わず逃げ出していった。
逃げてゆく暴漢達には目もくれず、彼は私の所へ歩み寄り、私に手を差し出す。
「大丈夫でしたか?」
彼の言葉に私は頷き、差し出された手を取り立ち上がった。
彼に礼を告げると、彼は「車で家までお送りしましょう。」と言った。私はその申し出に甘えさせてもらうことにした。それは身の危険を守る為というよりも、むしろ私が彼に強く惹かれてしまったからというほうが正しいだろう。私は彼との繋がりを絶ってしまいたくなかったのだ。
彼の後に付いて歩いていく。やがて彼は、まるでマグマのような赤い色をした車の前で立ち止まった。私は彼に言われるまま、その車の助手席に乗り込む。運転席の彼に家の方角を告げると彼は車を発車させた。
車は、マグマのように赤く点灯した信号で止まっている。私は彼の横顔をチラリと盗み見る。年は三十代前半といったところだろうか。彼とは出会ったばかりだというのに、その横顔を見る度、私の胸の奥でフツフツと熱い恋の炎が燃え上がるのを…もしくは煮えたぎる恋のマグマが流れ出すのを感じた。
「着きました。ここです。」
私は彼にそう告げた。
車を止めた彼は黙った。そこには民家は見あたらない。代わりに目の前には派手に光るピンクの看板が立っている。そこに記されている文字…「HOTELマグマ」。
「どういうことだい?」
彼は私にそう尋ねた。
「…図々しい…破廉恥な女と軽蔑されても仕方ありません…。けれども…もっとあなたの事を知りたいという衝動が抑えきれませんでした…。一晩だけでもいいです…私と過ごして頂けませんでしょうか?」
私はマグマグしくそう言った。
彼はしばらく沈黙したままであったが、やがて車をホテルの駐車場へと進入させた。私と彼との運命が、マグマのように少しづつ動き始めるのを感じた。
駐車場に車を停め、車から降りた彼は、ホテルの入り口へ向かう。私も彼に続いた。自動ドアを抜けると、壁に部屋を選ぶ為のパネルが
並んでいた。彼はその中からマグマの部屋を選び、ボタンを押す。そしてフロントへ向かった。私は彼と並んで歩きながら、彼のマグマのような腕を…マグマのような胸板を…マグマ顔を横目で眺める。彼はフロントで部屋のキーを受け取った。そのフロント係の初老の女もまた、マグマのようであった。
私はバスルームでマグマのようなシャワーを浴びていた。私と彼はこれからまぐわりあう…。いや…マグマりあう…。そのことに思いをはせる度、私の心臓はバクバクと高鳴る。いや、マグマグと高マグ。
シャワーを浴び終えた私は、体にバスタオルを巻いて彼の待つベッドへと向かった。ガウンを着てベッドに座っていた彼は、私の体を抱き寄せ、私をベッドに寝かせた。見つめ合う彼と私。
「マグマのような熱い夜にしよう…」と彼。
「マグマのようにドロドロに溶け合いましょう…」と私。
彼は、自分のマグマを強く私に押し付けた。そして私のマグマを激しく愛撫し始めた。彼のマグマからはすでに先マグマ汁が出ており、そのことが私のマグマをさらに熱くたぎらせ、私のマグマからはマグマが溢れ出した。彼はしばらく手マグマをしていたが、たまらなくなったのか、ついに自分のマグマを私のマグマの中に入れた。そして私のマグマの中のマグマをマグマで激しく突く。何度も擦れ合う彼と私のマグマ。やがて彼のマグマは絶頂を迎え、マグマから沢山のマグマをマグマの中に放出した。果てしない快感の中、私はついにマグマへと到達したのであった。

完 

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